「時節柄」、栗橋関所にもゲべーレ銃6挺の配備が決まったが、玉薬・管等は地元で調達する事になった。その見積書・直段書の指示の細かさといったら!
小川町歩兵屯所より日光表への「無才料」の荷物の通方についての伺いと指示のやりとりをみると、関所番士達の事態を理解する力、事態に対して観念的でなく具体的に細部を計算・予測して対処方法を見出そうとする姿が浮かび上がる。
江戸期、少なくとも幕末期、幕府下僚の職分に対する実意ある姿は、上からの命令に唯々諾々として従ってばかりいたわけではないことを語っている。
〔翻刻文〕
右同日
一御用状差出左之通
宿継致拝見候、然者御関所前後川筋御取締場見廻り之儀委細御下知被成下、尤如何之義も相聞候ハヽ早速御届可申上旨被仰下承知仕候
一御関所通方之儀ニ付御代官様ゟ御伺被成下候処、其御筋ゟ御付紙御写壱冊被成御渡、御文意之趣委細承知仕候
一当御関所御備御鉄炮当節柄御代官様ニも種々御配慮被成下、ケヘル筒六挺御買上御渡方之積御伺替被成下候処、御伺之通被仰渡候ニ付、附属之小道具御取揃次第早速御渡被下候趣被仰下承知仕候、尤玉薬・管御渡方之儀遠路御差立方ゟ当方ニ而買入出来候得者、所御買上ニ御伺被成下候段被仰下、尤玉薬壱貫ニ付何程、管何粒何程と申義、且又非常御備之分并筒払等ニ可相用分何程と見積、製造人江相談直段書可差出旨被仰下是又承知仕候、追而取調可申上候
一当十六日小川町歩兵屯所之添触を以、無才料ニ而継来候荷物通方之儀、宿役人共ゟ御関所へ申立候間、一通見請候得共、添触判鑑等兼而其筋ゟ御達しも無之、且品柄も相分兼候ニ付差留候、次第者此程日光表江相越候御目付方ゟ歩兵組其外御役々通行後締之儀迄厳重ニ可心得旨、当節不容易時節二付歩兵組抔と申人数、又者何様之荷物等何方ゟ被送候哉も難計候間、合印鑑等ニ而も無之ハ何ニ而も一切不相通様可致旨、且歩兵方之荷物等後ゟ送り来候ハヽ留置、其段栗橋宿役人共ゟ日光表在役江申立候得者、御目付方ゟ通方差図可致と之義二付、右荷物差留宿役人共江も其段申達置候間、通方御差図之義者、其御役所歟又者日光表在役之御目付方ゟ御達有之候得者、早速相通候心得ニ御座候
一右様之荷物其外武器類たり共差向候御用之儀二付、歩兵屯所役所之添触を以日光表江被遣候間、無差支可相通旨其御筋ゟ御達之上、兼而合印鑑等相渡し有之候得者、以来通方差支無御座候
右之段為御請如斯御座候、以上
子四月十九日 足立柔兵衛
冨田 潤三
加藤 摝兵
嶋田 耕平
渡辺幸之助殿
小菅十一郎殿
松澤 俊助殿
山口市郎次殿
〔訳文〕
右同日(四月十九日)
一以下の御用状を差し出しました。
宿継の御用状を拝見致しました。
さて、御関所附近の川筋に設定された御取締場見廻の件につき、委細御下知くだされ、承知しました。また(そのことに関し)何らかの問題や意見があればすぐ申し上げる様にとのご指示も承知致しました。
一御関所の通し方につき、御代官様より(上へ)御伺していただいたところ、御老中・御勘定方より御付紙の写壱冊をお渡し下され、御趣旨の委細承知しました。
一栗橋御関所御備の鉄炮の件につき、時期が時期でもあり、御代官様にもいろいろ御配慮くだされ、ケヘル筒6挺買い上げて関所に配備する旨御伺なさっていただいたところ、その通り承認されました。
附属の小道具を取り揃え次第、早速御渡しいただけるとのこと承知しました。
但し玉薬・管(※16)については、(江戸より)遠路運搬するより当方にて購入出来るなら、地元で調達する旨御伺するよう御指示がありました。
尤も玉薬1貫につき(費用)何程、管何粒につき(費用)何程という経費のこと、且つ又、非常御備の分ならびに筒掃除等に使用の分何程と見積り、製造人へ相談し、直段書を提出すべきことについての御指示も承知しました。近いうちに御用意して差し上げます。
一四月十六日、小川町歩兵屯所の添触のみをもって、宰領もなく宿継ぎ運搬されてきた荷物の通し方につき、宿役人共より御関所へ問い合わせがありました。
一通り見てとりましたが、添触の判鑑等もなく、管轄役所よりあらかじめ御達しもなく、荷物の中身も分かりかねたので差し留めに致しました。
それは以下の理由からです。
一つは、この程日光表へおいでになった御目付方から歩兵組その外の役付の皆様が通行する際、「後締」も厳重に注意しなければならない点、
二つ目は、当節は容易ならざる時節につき歩兵組などと自称する人々、又はどんな荷物が何処から送られて来るかも予想しがたく、合印鑑等がなければ一切通してはならないよう指示されている点、
三つ目は、歩兵方の荷物等後から送って来たら留め置き、栗橋宿役人共より日光表の御役目衆へ問い合わせれば、
御目付方より通し方につき差し図があるはずで、(そのことは)宿役人共へも申し達し置いてあるのです。
(歩兵方)御役所か日光表お勤め中の目付方より御達しがあれば、すぐに通すつもりでございます。
一上記のような荷物その外武器類であっても、急用御用の荷物については、歩兵屯所役所の添触で日光表へ遣わしますので、
管轄役所より支障なく通すべき旨の御達しをなされた上、予め合印鑑等御渡しくだされば、以後は通し方に支障もございません。
上記の事お引き受け致しました。以上
子四月十九日 足立柔兵衛(※17)
冨田 潤三
加藤 摝兵
嶋田 耕平
渡辺幸之助殿
小菅十一郎殿
松澤 俊助殿
山口市郎次殿
〔注釈〕
※16管:前装銃に用いる雷管。(日本国語大辞典)
※17房川渡中田関所番士、代官所手附・手代、代官の構成員について当時の『県令集覧』
に見てみます。
に見てみます。
『県令集覧』(文久三亥十月改正・江戸横山町壹丁目 御書物師 出雲寺萬次郎板印)右頁の左側より「福田所左衛門」についての記述、その左側に「江戸詰」22人の手付・手代、さらに4行飛ばして「房川渡中田御関所」の関所番士4人と「見習」2人について記載されています。因みに、(在)は御在府、(モ)は元〆、(カ)は加判、(ク)は公事方、(テ)は御手附・御手代衆、(支)は支配勘定格、(フ)は御普請役格 |
0 件のコメント:
コメントを投稿