番士達の仕事として、通行人の身分を的確に把握し、身分に応じた通行の仕方を細部にわたってwatchし、確認しなければならない。馬上通行か、乗駕か、下座か、立礼・座礼か等々、身分差は江戸時代の核心的要素であり、人々の生を深く支配する規範的制度であった。
五月廿一日
一日光表為御警衛去月十六日爰許通候役々此度引払之由ニ付雀宮立当駅泊リ通行左之通り
*御目付 高木宮内殿
御徒目付 小野鑑吉郎
志村栄蔵
御小人目付 吉沢嘉一郎
磯野福之助
中村益之助
斎藤八十吉
右中村益之助・斎藤八十吉御目付通行先ニ御番所江罷越、例之通尋其上御目付御使番共先達而登山之通相心得為通行致候旨相断、御目付江ハ足立柔兵衛罷出外一同下座
*御使番 有馬式部殿
家来使者
鉄砲拾挺 町原直助入来
右御使番江ハ当番三人*下座いたし候事
*「目付」も「使番」も、幕府旗本のエリートが抜擢される上級武士達である。関所番士は、下座、則ち高い身分の者に対する敬礼として、面番所から降りて平伏したのであろう。地上の下座だと「土下座」ということになる。
ただ、「目付」・「使番」以外は、敬称の「殿」が付されておらぬところからすると、「御徒目付」や「御小人目付」、「使番」家来は、関所番士達と身分的に同格ということか。
一御小人目付磯部福之助・中村益之助旅宿ゟ書状到来、右者御関所通方之儀ニ付内談有之候二付、壱人罷越呉候様申来、加藤摝兵・足立柔兵衛両人相越候処、種々問合有之談し趣者左ニ相記ス
〇栗橋止宿の御小人目付2人から関所番士と内談したき旨連絡があった。
一此節水戸殿家来之由申立、怪敷者通行又者印紙持参之者之内ニも不審躰成者通行無之哉之旨相尋有之、此儀聊怪敷躰之者是迄通行無之、殊ニ兼而御目付衆ゟ御達有之印紙銘々持参引合相違無之、其上夫々手札相添被差出役名等承り候処、野州栃木辺江通行又者同所より江戸小石川上屋敷江罷通候由被申聞、至而丁寧ニ而別段不審之義も無之段申聞候
〇水戸家の家来の動向について尋ねられたが、規定通りの手続きで関所通行を許可している旨答える。
一先達而水戸殿家来立原朴次郎御関所通行之節、馬乗ニ而通行之趣及承候、都而御三家方家来通行振合等尋有之、是ハ御三家方家来通行之義*
公儀御目見以上身分之者ニ無之候而者馬乗又者乗駕ニ而者相通不申、右朴次郎義公儀御目見以上と申手札差出断候二付、仕来之通り乗駕ニ而相通候、尤御三家方家来之分乗駕通行いたし候旨断出候節ハ、身分格式得と承り糺候上相違無之ニおゐてハ、御公儀御目見以上と申手札取置相通候、先前ゟ仕来之旨申聞、且又*御三卿方家来之分ハ*御屋形御代官位ゟ上之分乗駕ニ而相通候御規定之旨相答候処、成程附属之家来多ニ而尤之由被申聞候
*この部分、行替えされているが、「公儀」に対する尊敬・畏怖の表現として行替えされたのである。これを「平出(ヘイシュツ)」という。
*周知のように、御三卿は、八代将軍吉宗が、次男宗武に田安家を立てさせたことから始まった。以後、一橋家、清水家を合わせて御三卿と称した。勿論、御三家とともに、将軍の血筋を確保して、将軍候補をプールしておくためのものであった。御屋形様と呼ばれ、独立の大名ではなく、将軍家の家族として扱われ、賄料10万石が与えられた。所領には陣屋を置き、代官を派遣していた。栗橋周辺にも、一橋家の所領が存在する。
〇水戸家などの御三家あるいは御三卿の家来で公儀御目見以上の者は、馬上・乗駕で通行許可し、手札(名刺)を貰っておくことにして規定通りの手続きを踏んでいる旨答えると、納得してくれた。
一諸家家来之内、御関所乗駕致シ候者有之哉之旨尋有之、此儀大家之家老 公儀江御目見いたし、其身一代乗駕通行いたし度旨御目付衆江御届ニ相成、以来御関所乗駕ニ而可相通旨御目付衆ゟ御達有之分ハ、通行之砌手札取置乗駕ニ而相通申候、尤右之者退役・病死等之節者、除名直又御達有之子孫者別段乗駕御達無之候而者乗駕相通不申旨答、且大家之一門ニ而前々ゟ乗駕ニ而相通来候分者、別段御達無之候而も古来之通取計候趣申聞候
〇身分の違いや将軍家との歴史的因縁等により、細かい差別が設定されている事が分かる。その細部の裁定は、目付の仕事である。栗橋関所通行の大家の家老の例として、仙台藩の家老が挙げられる。
一荷物通し方之儀、道中無才料ニ而宿送等之荷物如何取計候哉之旨尋有之、是ハ御用物ニ相限宿継證文無才料ニ而相通候儀有之、既ニ先達而小川町屯所ゟ日光山江被差遣候長持在中品書附触ニ無之、殊ニ各方ゟ従跡人数并荷物共被差送候共、決而相通申間敷旨先般御達も有之、都而無才料之荷物貫目多ニ而不審之荷物ハ御用物ニ而も差留、通し方其筋へ相伺御差図を請相通候、尤諸家長持并包切荷物改方儀ハ才料附添掛り證文持参差出候間、不審之儀も無之證文持参ニ候共、格別貫目多武器等ニも紛敷見請候得者、在中相改且又三尺以上之包切荷物不相応之荷物ハ、切とき在中改相通候旨相答候処、尤之由被申聞候
〇幕府の荷物=御用物は、宰領(荷物運搬の責任者)がいなくても、宿継証文が出されていれば、各宿の問屋場で荷物が人馬によって引継がれていくのである。ただ、世間擾乱のこの時期にあっては、公用物でも怪しい物や大きな物は切り解いて中味を確認して通していると伝え、御小人目付たちも尤と同意してくれた。
一先達而日光登山之節、差出置候印鑑御用相済帰府ニ付、相返呉候様被申聞、此度之御用限りニ而自分直書之印鑑ニ付、都而不取締ニ相成候間、不残御返却可被成旨被申候間、御目付・御使番・歩兵頭・御徒目付・御小人目付衆一紙印鑑、右磯部福之助・ 中村益之助両人江相返ス事
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